私説 小倉百人一首 No.72 祐子内親王家紀伊

祐子内親王家紀伊

音に聞く高師の浜のあだ浪は
       かけじや袖の濡れもこそすれ

【歌の背景】中納言俊忠が「浦風によって、波が打ち寄るように、恋の思いを打ち明けたい」という意味を込めて歌ったのに、紀伊が「ごめんです」と歌い返したもの。恋歌の歌合のことだから、実際の恋の駆け引きではない。恋歌をやり取りする宮中での遊びにふさわしい、技巧に走った歌。

【歌 意】世間で評判の高い高師の浜の、むなしく打ち寄せる波のように、移り気で真実のないあなたの誘い言葉に、思いをかけるのはやめておきましょう。そんな方に恋をすれば、後で捨てられ悲しみの涙で袖を濡らすようなことになるでしょうから。

【作者のプロフィル】祐子内親王家に仕える紀伊という女。内親王は後朱雀天皇の第一皇女。紀伊は平経方のむすめ。紀伊守重経の妹だったので、兄の官名でこの呼び名がある。「一宮の紀伊」「中宮の紀伊」ともいわれた。当時、歌人として令名があったらしく、歌合にも名が連なっている。