私説 小倉百人一首 No.38 右 近

右 近
※右近衛少将、藤原季綱のむすめ。

わすらるる身をば思はず誓ひてし
       人のいのちの惜しくもあるかな

【歌の背景】右近が、永遠の愛を誓い合った相手の男が、自分を顧みなくなってからその男に贈った歌。どれだけ愛を誓い合っても、心変わりするのは男の習いである。この点は今も昔も変わらない。それを神かけて誓い合ったのだから、誓いを破った男に神罰が下らぬかと心配しているさまは、素直に解すると捨てられてもなお相手に正面から恨み言を言わず、間接的にしか抗議できない女の哀れさが表現されている。また、もう少し深く読むと、女は男の身勝手を脅し文句スレスレでからかっている歌ともとれる。

【歌意】私はあなたに忘れられる身であったのに、そのことを考えもしないで、いつまでも人の心は変わるまいと神かけて誓っておりました。でも、あなたはその誓いを破ってしまった。そのために(神罰を受けて命を失うのではないかと)あなたの命が惜しまれてなりません。

【作者のプロフィル】右近衛少将藤原季綱のむすめで、醍醐天皇の中宮、七条の后穏子の女官であったので、その女房名として父の位の「右近」を呼び名としていた