私説 小倉百人一首 No.50 藤原義孝

藤原義孝

君がため惜しからざりし命さへ
       長くもがなと思ひけるかな

【歌の背景】朝になって女と別れて帰ってから、女に贈った後朝(きぬぎぬ)の歌。当時は男が女の家に通って一夜を過ごし帰った後、とくに初夜の後には後朝の歌を贈るのが、習慣であり礼儀だった。

【歌 意】今まであなたに逢えるものならこの命を捨てても悔いはないとまで思い込んでいましたが、あなたへの思いを遂げた今はあなたに逢うためにできる限り長く生きたいと思います。

【作者のプロフィル】謙徳公一条摂政伊尹の三男。醍醐天皇皇子代明親王のむすめ、恵子女王の間に生まれた。少年時代から詩才に優れ、なかなかの美男であったうえに、品行方正で信心も深かった。年若くして近衛少将に進んだが、22歳の天延2年(974)天然痘にかかり急死。兄の挙周は朝、義孝は同じ日の夕方に死んだという。子の行成は能書家として有名。