私説 小倉百人一首 No.30 壬生忠岑

壬生忠岑

有明のつれなく見えしわかれより
       あかつきばかり憂きものはなし

【歌の背景】当時の男女は、男が宵に女の家に行き、一夜を過ごして翌朝に帰ってくるというものだった。後朝(きぬぎぬ)の別れのとき、女がいかにも冷淡によそよそしくしていた。つらい思いで帰ろうとして暁の空を見ると、そこには有明の月が残っていたが、その光がいかにも白々しく、すげなく思われた。それ以来、暁になるとそのことが思い出されてたまらなくつらい気持ちになる。そんな気持ちを詠んだもの。

【歌 意】夜明けにまだ残っている有明月のように、私の思いはまだ残っているのに、あなたは前夜のことを忘れたかのように冷たかった。あれ以来、私にとって暁ほどつらいものはない。

【作者のプロフィル】安綱の子、忠見の父とされるが、壬生氏についてはよくわからない。古代の皇族の養育に関わった乳部(みぶ)に通じるのか?生没年についても不明。右衛門府生、御厨子所預などを経て、六位摂津権大目になった。身分は低かったが、躬恒と同様、和歌が上手だったので「古今集」の撰者になった。陽成・光孝・宇多・醍醐の四朝に仕えた。